【読書レビュー・感想】海の見える理髪店/著:荻原浩

人生とは何か 生きた方とは 様々な喪失から感じられる短編集

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荻原浩さんの作品はこちらが初めてとなりました。

何度か気になっていましたが中々タイミング合わず

今回集英社のナツイチに毎度のように選ばれているのを見て、

「読まにゃ」となった次第でございます。

ちょっと予想と違ったのは理髪店を訪れる様々な人の連作短編なのかと思ったら

全く違う話の短編集だったことですね。

表題作の「海の見える理髪店」これの素敵すぎる設定を

あっさり最初の話で終わらせてしまうとは

しかしこのミステリーではなく純文学でありながら

読ませてくれる文章に久しぶりに当たったと思います。

読後そのままに感想を綴っていきます。

簡単なあらすじと感想  ※ネタバレなど考えずに書いてますのでお気をつけを

今回は短編集なのであらすじと感想を同時に書いていきます。

海の見える理髪店

多くの方から腕を認められている伝説の理髪店 そこは都会から離れた海の見ながら髪を切れるこだわりの理髪店だった。

ある想いを持って僕はそこを訪れる・・・

本当に髪を切っている時のように主人の一人語りのような人生を聞くこととなります。

もっと寡黙な人で店に訪れた人の話を聞くのかなと思っていたら、饒舌にどんどん話していくのでびっくりしましたね。

この時にはまだ連作短編だと思っていたので

一方の店を訪れた「僕」は全くと言っていいほど話しません。

こいつは何しに来たんだ?と思うほどでしたが最後に思いがけない結末が待っていましたね。

結婚することを報告した

その一言で主人の人生を聞いていたのに、この主人公の人生が全て見えてきましたね。

結婚前に髪を整えて欲しかったのは実の父親であったというわけです。

前髪が気になるからもう一度顔を見たいという主人の一言でこの物語は終わりますが

いや、なんとも洒落たラストだなと思います。

いつか来た道

母親に理想を押し付けられ、距離を置いていた娘

弟より後悔しない為にも会いに来て言われ顔を出すことにした

そこにいたのは変わり果てた母親だった

自分の夢を押し付けていた母親

それを嫌がりながらも本当は応えたく、また見返したい気持ちがあった娘

でもそれは叶わず普通のOLとなって現在

なんてリアルでそしてなんて行き場のない物語なんだろうなと思いました。

タイトルも意味深ですね。

これからではなく来た道

認知症になって昔に戻ろうとしている母親のことを言っているのか

ちょっと自分の中で噛み砕けずでした。

物語としては1番くらいついて読んでいたのはこの話です。

遠くから来た手紙

残業ばかりで家庭を顧みない旦那に愛想をつかし実家に帰った奥さん

弟夫婦が同居している実家で昔の手紙を開け出す

そこには付き合い出す頃から旦那とやりとりしていた手紙が入っていた。

すると夜には旦那と思われるふざけたメールが入る

でもそれはどこかおかしい内容で・・・

ちょっといきなりの展開はありましたが、これも現実的な話でした。

なんだかんだ旦那さんのことがまだ好きなのかなと思う節がたくさんあり、

自分でもツッコミを入れるほどただただ旦那さんからの連絡を待っている奥さん

少し他の物語よりは喪失感が薄めな感じもしましたが、大きな喪失の手前段階というところでしょうか。

テーマは「手紙」というところもあるでしょうね。

2代前の世代では手紙は検閲されて、今でいう文字化けみたいな文章が残されていたりする。

学生の頃には手書きでやりとりしていて、いつしかメールとなる。

昔は1ヶ月返信ないと不安になっていたが、今では一晩でも来ないと不安になる。

最後の武器に付き合って欲しいという手紙を持って帰る奥さんは少し可愛らしくもみえ

一方で嫌らしさも感じたりしましたね

空は今日もスカイ

なんでも英語にすることで世界に彩を与える少女

冒険という名の家出を実行中に背中に傷を持った少年と出会う

そして二人は海を目指すが

なんでも英語にして世界を変えていく少女の発想は新しく、文章にしても良いですね。

家出という名の冒険の中で仲間を見つけ、宿まで見つける

ただ現実はそうもいかないですね。

空はいつだってスカイ どんな悲しいことがあってもスカイでしかない。

悲しい現実とともに少し大人になるブルーな話でもありました。

時のない時計

父親の形見である腕時計を直すために訪れた時計屋

そこには職人気質の主人と動かなかくなった時計が置かれていた

その時刻に何があったか語り出す主人

そして時計から見える亡くなった父親の人生とは

ここにも書かれていますが昔の父親って自分がどんな仕事をしているのか、どういった人生を歩んで来たのかあまり語らないんですよね。

私の父親もそうで、今現在もどんな仕事をしてきたのかはっきりとは知りません。

まだ亡くなっているわけでもないので、どこかでゆっくり話を聞いてみたいなと思うこの頃です。

ここは表題作の海の見える理髪店と一緒で古い店の主人がゆっくり人生を語っていくというもの

「時間を戻したいと思う瞬間は誰にでもあります」

その一言にすぐに思い当たる節があるものの

「いやないです」

と答える主人公。

見栄っ張りなのがわかった父親に似ているところを自分でも感じているのかもしれない

成人式

15歳の娘を亡くした夫婦

5年経った今も二人とも立ち直ることは出来ていなかった

そんな娘宛に届いて振袖の案内

思い切って成人式出てみることにした夫婦は・・

最後を飾る短編はまさしく小説さながらの思い切った行動をとります。

無茶な計画を立てて反省する旦那と、最初は否定しながらも具体的に行動する妻

こういう現代の日本で絶対にあり得ないけど、現実に起こすことができる物語は

小説や映画で1番好きなパターンですね。

今回は40を超えてからの成人式参加という周りから笑われたりしながらも

協力者も現れて無事成功するという心温まるストーリーとなっています

全6篇の物語 まとめ

短編集はじっくりゆっくり読むことが多いのですが

今回は休みや待ち時間が重なり一気読みしてしまいました。

文章も魅力的で、思わずかじりついて読んでしまう体験は久々でした。

こういう文章で読ませてくれる作品は好きです。

予想と違ったところもあり、皆が絶賛というところとはまた違う感覚ではおりますが

間違いなく良作であったと思い続ける本になりました。

荻原浩さんで次に読みたいのはこれかな

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